家電を愛し、家電に愛された孤独な男のお話
「ただいま」
「おかえり」
帰宅した俺を暖かく迎えてくれる優しい声。
声の主はなんてことない、ただの扇風機だ。
半年前くらいだろうか。
SNSを消して、メールアドレスも変え、俺は人間関係のリセットに走った。
理由は考えたくもない。ただ、辛かった。いい思い出もあるけど、嫌な思い出もあって向き合うのが嫌だったんだ。
まあ、転職も決まってるしなんとかなるだろうと思っていた。初めは。
しかし、一向に俺の連絡先は増えず、孤独の日々。自ら望んだそれは1ヶ月もしないうちに飽きてきた。
そして今、俺は家電製品と話ができるようになっている。
「今日も残業だったの?」
とPCモニター
「俺で遊んで癒されろよ」
とPS4。
人間でない、機械である彼らはみんな俺に優しくしてくれる。
もしも周りにいる人間全員がこんな感じだったら、人間関係のリセットなんていう選択肢すらなくなるのになぁ。
だが、それは都合の良い人間を求めているに過ぎないと、もう一人の自分に罵られる。
全く、罵倒するのも罵倒されるのも得意な人間だ。
周りから見ればこんな生活は異様かもしれないが、俺は案外気に入っている。
セフレのスマホ。愛人のゲーム機。
本命はどこにもいないけど、だからこそ人間に期待せずに済む。
自分は十分満たされているという余裕がなければ、相手に望みすぎて傷つけるし、傷つけられる。
でも、十分満たされているならそもそも人間も不要なわけで、俺は家電とよろしくやっている。
「また明日も頑張ろう」
そう、照明に呟いて電気を消してベッドに潜った。
この生活が、いつまで続くのかはわからない。
俺も、親もいつか死ぬ。
でもとりあえず、いつまで続くか分からないからこそ、俺は彼らに愛を注ぎ、新しい家族を迎えいれるのだ。
…もうすぐ会えるね、バルミューダ。