うさぎと僕
うさぎには声帯がないらしい。
初めから鳴くことを許されていない動物だ。その理由は色々考察されているが、ひとつに肉食動物に殺されないため、というものがある。
なんだか僕みたいだなぁなんて思う。
日々、周りの批判、悪口、声の大きさ、噂話、見下し、怒り、気分、不謹慎、ジェンダーなど、いろいろなものに怯えて、できることなら何も話さずに平和に生きたいと願っている自分と、声帯がないうさぎにはどこかシンパシーを感じる。
でも、うさぎには「足だん」がある。強く大地をけとばして、周りに振動を与えることによって周りとコミュニケーションをとるらしい。
僕にとっての足だんはなんだろう。
それは表現活動なのではないか。
日常の鬱憤とか、怒りとか、言いたいけど言えなかったことを物語や登場人物に託して、誰か共感してくれと世に放つ。
それはウサギと同じように肉食動物たちに、捕食される可能性もあるのだが、おんなじウサギから感謝されることかもしれない。
そしていつか仲間が集まれば、スイミーのようにみんなで協力しあって、肉食動物さえも凌駕できるかもしれない。
彼らは彼らで生きればいい。ただ、僕らは僕らで生きたいんだ。
大きな声で鳴いたって、捕食に怯える必要はなくて「どうしたんだい?」といってくれる仲間がいるようなそんな場所で、生きて鳴いて、泣かれながら死んでいきたい。